Food 食

オーガニックが救う小さな命~「アニマルウェルフェア」という考え方


ドイツで大人気の有機卵と国民の関心ごと


RTL.de

ドイツでは、非常に人気が高いオーガニック食材として知られるものに有機卵があげられます。
2018年現在で市場に出回る卵のうち、10個に1個は有機ともいわれるほどの人気を博しています。

2016年にドイツでおこなわれた世論調査では、「有機卵を時々買う」「有機卵をよく買う」「卵は有機のみ購入する」と答えた人を合わせると全体の約85%もいたという報告があります。

そのうち、なんと30%以上の人が「卵は有機のみ購入する」と回答しているほどです。

オーガニック食材を買うと答えた人のその理由の第1位は、「アニマルウェルフェア(動物福祉)のため」という市場調査結果が出ており、ドイツ人にとってアニマルウェルフェアという概念は、食を取り巻く事象に関して最大の関心ごととなっています。
(有機農業と持続可能な農業に関するドイツ連邦政府プログラム Bundesprogramm Ökologischer Landbau andere Formen nachhaltiger Landwirtschaft(BÖLN)がおこなった世論調査2016より)

養鶏場、そこは生まれたての命が殺される現場


Animal Equality

2017年、世界では約7兆羽のオスのひよこが孵化直後に殺処分を受けたという報告があります。
(出典: Poultry Science https://academic.oup.com/ps/article-abstract/97/3/749/4780252?redirectedFrom=fulltext)

日本や私が暮らすドイツでも、約5000万羽のオス雛が昨年それぞれの国で殺されたというデータがあります。
(2017年統計,ドイツ統計の出典: Welt https://www.welt.de/wirtschaft/article172952673/Wie-die-Gefluegelwirtschaft-das-Toeten-maennlicher-Kueken-beenden-will.html、日本の統計の出典: 日卵協 http://www.nichirankyo.or.jp/kaiin/kr02.htm よりオスメス雛の割合を半々で考えて計算)

採卵養鶏でオス雛が殺されるのは、育てても卵を産まないから。
さらに、採卵鶏は食肉用としては味がよくない品種が多く、成長速度が遅いため、農家にとっては食費などの維持費が高くつき農業経営を圧迫すると考えられています。

オス雛の殺処分方法はさまざまで、先進国では毒ガスを使用されたり、シュレッダーのような機械で粉砕され、その後ほかの動物の餌になるケースが多いといわれています。

新興国や途上国では、焼却処分、溺死、窒息死、生きたままほかの生き物の餌にされるといった残虐な方法が取られるケースもあり、世界から厳しい批判を受けてきました。
(出典:The Indian EXPRESS https://indianexpress.com/article/india/suguna-foods-animal-rights-peta-alleges-cruelty-towards-male-chicks-at-hatcheries/)


Animal Equality

このような世論がドイツでは官民学を動かし、2015年には当時の独食料・農業相クリスチャン・シュミット氏が、オス処分を減らすための技術開発に100万ユーロを投じると発表しています。

その後、2016年には、ドイツ・ドレスデン工科大学がリトアニア・ヴィリニュス大学と共同で、鶏の有精卵にレーザーをあて、雌雄を区別する技術を開発しています。

この技術を使用した養鶏場の卵は、2019年の年末までにドイツ大手のスーパーREWEやPENNYで「アニマルウェルフェアに配慮した」卵として販売されることになっています。

エシカルな生産ができなければ有機ではない


Viscom FOTOGRAFIE
しかし、この新技術にも落とし穴があります。
それは、有精卵にレーザーをあて、オスだと判断された卵は孵化する前に結局殺処分されてしまうこと。

この技術の導入は、ドイツのオーガニック産業界では大きな批判の的となり、この技術を受け入れないという表明が各団体で出されるほどでした。

例えば、ドイツのオーガニック認証団体DEMETER(デメター)、BIOLAND(ビオラント)、NATURLAND(ナトゥアラント)では、「オスの殺処分の時期が早まっただけで問題の解決になっていない」と技術を全面否定し、その後も、それぞれの有機基準内でレーザーの使用を認めていません。

有機養鶏が目指すのは、鶏という生命の尊厳を守りながら養鶏業を営むこと。
そのためには、オス雛もメス雛と同様に無駄に殺されてはならないと考えています。

2015年、Ökologische Tierzucht (ÖTZ) gGmbHという育種会社がドイツで設立されています。
これは、オス雛を殺処分せずに済む新しい有機養鶏の品種改良を進めるために、ドイツのオーガニック認証団体が共同で設立した会社です。

採卵用としても食肉用としても生産性を高く保てる改良品種が作り出され、養鶏家にとって経営が現実的なものになるようなら、オス雛は無駄に殺されずにそのまま食用の鶏として育てられることになります。

しかしながら、この品種改良が実現するまで、少なくともあと10〜15年はかかるだろうといわれています。

有機養鶏家が直面するコスト問題


Alnatura.de

日本の農林水産省によると、有機畜産とは、おもに有機農産物を飼料として与え、遺伝子組み換え技術や抗生物質などの薬剤に頼らず、家畜の行動・生理要求に沿って野外への放牧などをおこない、ストレスを与えずに飼養する畜産農業です。

これは、家畜に不必要な苦痛を与えず、よりよい生活を保障しようとするヨーロッパで生まれたアニマルウェルフェアの考え方に基づいています。

問題は、有機養鶏は比較的コストが大きく、養鶏家の財政負担が大きくなりがちなこと。

例えば、ケージ飼い(カゴを使った飼養)の大規模養鶏は、1羽あたり年間約330個の卵を産むのに対して、有機養鶏は約280個が限界といわれており、大幅に出荷量が落ちます。

また、有機基準では1羽あたりの飼養面積が規定されており、ケージ飼育などをおこなう従来の慣行養鶏の場合と比較して、広大な土地を確保する必要があります。

しかも、世界に存在する採卵鶏はほとんど同じ品種といわれ、いずれもハイパフォーマンス種。

この種の養鶏は、高タンパクの餌を大量に摂取して短期間で育つように改良された品種です。

このような種を有機養鶏で飼養する場合、有機餌は比較的低タンパクなため、長期にわたって大量の餌が必要になることから、農家の財政を圧迫するほどのコスト高になってしまいます。

私たち消費者にできること


pixabay

前述した、独オーガニック認証団体が推し進める運動の活動経費は、ほとんどが一般消費者や産業界によって支えられているといいます。

尊い命を無駄にしたくない、家畜・家禽にも動物らしく生きる権利がある。
そう強く思う人たちの寄付や消費によって品種改良などのプロジェクトが日々前進することができているのです。

真のアニマルウェルフェアを具現化した有機卵が改良されるまで、気の遠くなるような養鶏家の並々ならぬ苦労や努力が必要になります。

有機養鶏が世代を超えて生き残るためには、私たち消費者が消費しつづけることが何よりも大事。

ドイツと比べると日本では有機養鶏は生産者も出荷量もまだごくわずかです。
有機餌の入手のしにくさ、土地確保の難しさ、販路が限られていること、消費者の意識がまだ低いことなど、日本の有機養鶏家は圧倒的に不利な立場にあります。

有機卵を日本で確実に広めるためには、あなたの理解と支援が求められているのです。

 
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オーガニック専門家 レムケなつこ
ドイツ法人オーガニックビジネス研究所 – IOB – Institut für Organic Business GmbH 代表取締役CEO & Founder、慶應義塾大学経済学部卒

本場ドイツの大学院と食品研究所でオーガニックを研究開発。20代でボリビアにてJICA⻘年海外協力隊、メキシコでJICA専門家として途上国の生産者支援に関わった経緯からオーガニックに目覚める。オーガニックを軸に、スクール事業、商品開発事業、コンサルティング事業をグローバルに展開中。


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